忙中ニコマスあり

アイドルマスター徒然

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一時間SS参加作品 

・緑
 

「千早ちゃんのネクタイかっこいいなあ~」
「そ、そう?」

 今日の千早はシャツにネクタイを合わせている。こう、すらっとしたスタイルにしゅっとしたネクタイがいい、実にいい、春香は目を細めた。 「春香だって、この前の衣装で赤いネクタイ付けていたじゃない」
「うーん確かによかったけどね~、私はリボンとかの方がいいなあ。かわいくて」
「……私はかっこいい方がいいっていうの?」
「そう♪」

 まったくもって邪気のない褒め言葉に千早はただ苦笑するしかなかった。

「今日は緑なんだね」
「そうね」
「ひゃー降ってきちゃったよー」
「あっプロデューサーさん! うわびしょ濡れ! あー入ってきちゃだめですよ!」
「悪い」
「小鳥さーん、タオルありますかー?」

 騒がしく出ていく春香を尻目に、千早はプロデューサーを見た。

「30パーセントの確率でも油断ならないな」

 肩をすくめるプロデューサーに千早は口の端を曲げ、濃い緑のネクタイを撫でた。





「ねえねえ千早ちゃん見て見て~!」
「赤ずきん?」
「そうそう」

 携帯電話の中に映るのは、童話に出てくる赤ずきんの格好をした春香だった。今度の写真集のオフショットらしい。プロデューサーが大げさに腕をひろげ、赤ずきんは「きゃー」と悲鳴をあげる体の構図だ。

「こんな事させて……」
「たべられちゃうー!」
「春香っ!」
「あははゴメンゴメン~。そうそう、クラスでも話してたんだけど、『狼に食べられちゃう赤ずきんちゃん』って、ほんと、そのままの意味だよね」
「?」
「もー、みなまで言わせないでよっ」

 いまいち反応の悪い千早に、春香は(完全に受け売りの)女子トークを披露するのだった。


◆ 


「私、思うんです」

「赤ずきんは、食べられてもしかたがたない、って」

「おばあさんに化けた狼に、何の警戒もなく近づいて」

「毛むくじゃらの腕を取り、目を覗き込み、口を開けさせて、『ほんとうにおばあさん?』だなんて」

「食べられても、しょうがないじゃないですか」

「森の中の出来事を知っているのは、食べた狼と、食べられた赤ずきんだけ」


「深い、深い緑に沈んでいく、どんな感情も」






「春香!?」

「へへー? 今日はオフで家にいるっていってたでしょ?」

 ちょっとしたいたずらに成功した春香の背後、間抜けに石焼き芋の声が聞こえる。

「え、ええ。春香の方は? レコーディングが」

「なんか機材トラブルで、今日はまるまる一日無理なんだって~」

「プロデューサーには?」

「先に千早ちゃんをびっくりさせる方を思いついちゃって、えへへ」

「じゃあ、今電話しておくわ」

「いいよ、いいよ今、かけ、ちゃう、からっ」

 靴を脱ぎながら春香は器用に携帯電話を操作した。

「あ、お疲れ様です! あれ、今外ですか? はい、今日のレッスンなんですけど……」

 報告をする春香を気にしながら、千早は台所に用意していたカップを二つ、戸棚にしまった。

「あ、そっちでも石焼き芋の声が聞こえるー! ホントこの季節どこ行っても聞こえてきて、誘惑に耐えきれませんよね!……」

 
 千早は、息を呑む顔を春香に見せないようにするだけで精いっぱいだった。





 ふいに、春香が切りだした。

 
「千早ちゃん」

「……何?」

「今日は、くつ下が緑だね」


 森の中に、猟師が入ってきたら、おはなしは終わり。



・緑   了

原案:北村薫「赤頭巾」



企画の元サイトはこちらです。http://ss1hour.wiki.fc2.com/
( 2010/05/07 23:40 ) Category SS | TB(0) | CM(2)
大人な話ですね。
色々と遠回しな表現や描写なんだけれど、
「そういう事」としか考えられないキャラの関係性とか、
最後の「猟師」とか、絶妙でした。
春香は知らないんですよね。多分。
いや、知ってて「これ」というのも、それはそれで……
短編ならではの面白さが詰まった作でした。
1点、「30パーセントの『確立』」が『確率』ですね。
[ 2010/05/12 08:57 ] [ 編集 ]
>ガルシアP

こんにちわ~

御指摘ありがとうございます。修正しました。

元にした小説はもっと具体的にしんどい話だったりします^^;
[ 2010/05/14 00:54 ] [ 編集 ]
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