忙中ニコマスあり

アイドルマスター徒然

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1月21日は四条貴音さんの誕生日ですのでお話をひとつ 

なかなか新たに出し物もないのが申し訳ないので、2010年3月にコピー本で作った貴音さんのお話をサルベージいたします。


タイトルは、「どんぶりラプソディ」
お気軽に楽しんで頂けたら幸いです。



「どんぶりラプソディ」






 運命の出会い、ということについて。

 彼女とは、自分が普通に生まれ、普通に生き方を選択をしてきた結果、仕事のめぐりあわせとして出会っただけである。それは誰にだって起こりうるものであり、運命だなんて人間様が介入することのできない超常的な何かよって決められているようなものではない。

 運命。人が何かを得る時に、自分にとって最良の結果を引き当てた時に湧きおこる歓喜。それをこの便利な二文字の表現に置き換えているだけだ。

 だというのに彼女は、目の前の四条貴音という人物は、

「それはきっと、運命の出会いに違いありません」

 穏やかに微笑み、それを肯定した。









「この出会いこそ運命に違いありません!」
「わーったからそこまで声をあげんでもいい!」

 カウンターに並ぶ他の客の視線が一斉にこちらを見、恥ずかしい思いをした。胸の前で手を組み、芝居がかった感嘆の声を朗ずる少女をたしなめ、座らせる。
「全く、どうしてお前はラーメンのことになると妙な気合いが入るんだ?」
「それは間違いです。プロデューサー殿」
 自分の人生の経験上『殿』なんて言葉を使う人物というのは過去覚えがない。だが隣の少女は立ち振る舞い、言葉使い、全てにおいて何か古風な気品を匂わせる。生真面目なまなざしをこちらにまっすぐ向け彼女―――四条貴音は言った。
「良きらあめんを前にして気分を昂ぶらせる、人の感情としてごくごく自然な流れ……すなわち何も妙なところなどありません。人気店のあまりの行列に屈したプロデューサー殿の苦肉の策に入ったここ、日○屋だとしても、です」
「お前のすごいところはその物言いがまったく嫌味にならないところだ」
 ひと声ひと声がまるで花咲くような、それでいて落ち着きも見せる艶、しかし紡がれるラーメンにかける情熱には度し難い論理が荒れ狂うアンバランスさ。
「では、いただきます」
「おう、いただきます」
 貴音は自分の主張を述べた後は速やかにラーメンを食すことにその意識を転じた。単に言いたいことを言って相手に反論の余地を与えなかったのではなく、のびるからだ。ラーメンが。彼女の世界の順位は厳格である。
「つるつる……」
「しかし何時観ても器用に静かに食べるのな……」
 すでに賞味することに夢中な彼女を眺めつつ、自分の割りばしを割る。

 四条貴音はアイドルである。そして目下その担当プロデューサーを務めているのが自分だ。二人が所属する芸能事務所『765プロ』は、そこまで潤沢に人材のいる大組織ではない。故に担当アイドルのマネージメントもプロデューサー業務に含まれている。現場への行動も殆ど共にする都合上、こうして帰りにラーメンを食べることも少なくない。
 ……訂正。アイドルはそんなに堂々とラーメンを食べない。ひとえに彼女の無類のラーメン好きが高じて、夕刻あたりに終わる仕事の後は必ずラーメン、という流れが定着しつつあった。
「先ほどのお店なのですが」
 食後、少し離れた駐車場まで歩く折、それまで満足げに自分のやや斜め後ろの隣を歩く貴音が口を開いた。
「とても、心弾む思いでありました」
 二月も半ば、お互いの吐く息は白い。最近気に入っているというピンクの毛糸の手袋をした両手を胸の前に合わせた。それこそ祈りをささげるような格好になる。貴音が何か染みいるようにものを言う時の特徴だ。
「そうか? 普通の店だが。確かにいつもよりテンションが高かったな」
「あ……」
 ふいに貴音が眉根を寄せる。何か、少し期待が外れてしまったような表情。
「どうした?」
「い、いえ何でもありません」
「うむ……」
 何かいわれのない気まずさを感じるが、何か、を確かめる間もなく貴音に迎えが来てしまった。じいや、彼女の住む世界の『格』をそのまま体現するかのような職業の方の運転するこれまた『格』を感じる高級車を見送る。
「……帰るか」
 明日の朝にでも改めて話せばいい。そう結論づけて自分の車に乗り込んだ。


             ◇


 コンコン。


 寝入ろうとした矢先、インターホンではなく玄関の戸が小さく叩かれた。
 気のせいかな、と目を伏せたままでいると、コンコン。

 風や偶然ではない、明確な意思を持ったノックだ。しぶしぶ寝床から這い出し玄関に向かう。はい、ともあい、ともつかぬ誰何の声を出しながら、施錠を解きドアを開けた。
「やぶんにおそれいります」
「……」
 果たして、そこには小さな来訪者があった。
 キリリとした目じりに丁寧な言葉遣い、だがやや舌足らずなところが愛きょうになっている、と評すべきか。ふわふわとした白い飾りのついたワンピース。その服と溶け合うようにふわりと揺れる銀髪はあまりにも現実離れしており、夢の中にでもいるかのような心地が続く。深夜に見知らぬうちを訪ねる子供という『事件』に対する疑念が、カケラも浮かんできていなかった。
「おねがいがあります」
「なんだい」
 少女は手を後ろに組んでおり、何かを持っているようだった。まるで機能しない頭はただ状況に流される。
「これを」
 差し出されたのは小さなどんぶりであった。白く柄の無い陶器と思われる質感、ちょうど大人が食べるそれをちょうどお子様サイズにしたような。それを大切に両手で包んで、少女は続けた。
「これにふれて、みていただきたいのです」
 そういうや否や、自分の手はどんぶりを包む少女の手に重なるように吸い込まれていった。
「みていただきたいのです」
 繰り返す言葉、重ねられた小さな手は光を帯び始めた。と、同時にいやに耳の近くから別の声が耳朶をくすぐった。

「織りなす景色と、運命を」

 どんぶりから漏れだす光が視界と意識を全て真っ白にした。








「元気な、元気な姫君にございます!」
 部屋に駆け込んだ王の視界に飛び込んできたのは、産後の疲労も色濃いものの笑みを称える妃と、傍らで純白のおくるみに包まれ寝息を立てる小さな命だった。
「おお、おお……!」
 感涙に咽ぶ王。周りの侍女、従者、大臣も涙を隠さない。
「あなた様」
 妃は王を呼んだ。そばに寄った王は妃の手をしっかと握り締める。
「我が国を託す子を、ようやくこの御世に」
 授かるまでは決して楽な道のりではなかった。だからこそ、妃のこの言葉は、王であり夫であるこの男の望みを叶えることが出来た歓喜にうち震えていた。王はただ、ただうなずき妃の手を取り続けた。
「さあ、王、姫君をお抱きなされ」
 いつもは口うるさいとしか感じない大臣の忠告も、この時ばかりは気にならなかった。そうだ、我が子、我が子をこの手に。王は静かに目を閉じる赤子に手を伸ばした。
「ほほ・・・・・・いけませぬ王、ここを、こう支えて……」
 産婆の手ほどきを素直に聞き入れ、ぎこちなくも、王はその腕に大事に赤子を、この大国の後継たる運命を背負いし子を抱いた。
「初めに生れし子を王となす。一族のしきたりは揺れぬ。男か、女か、そんなことは些細なことなのだ。我が娘……」
 いとおしく頬をなぜる。そして配下に高らかと命じた。
「さあ、生誕の儀である」
 委細承知、とばかりに大臣の目配せで用意されたものが部屋に運びこまれる。
「この聖なるどんぶりに聖なるラーメンスープを入れるのだ」
 国一番のラーメン職人が用意した最高のスープが岡持ちから出されってちょっとまてええええええええええい!!!!!


               ◆


「・・・・・・如何いたしましたか?」

 どことも言えぬ場所。
 どこからともなく『声』は、情景を中断させたのが一体どうしてかわからない態度。

 当然の抗議を表明する。

「荘厳な雰囲気が台無しだろこれ!」
「抗議されても、何も意味はありません」
「何?」
「見ている、だけなのですから」


                ◆


「やめろタカネ! そうやって重力に魂をおしあいへしあいして、刻の涙っぽい何かを流してみたところで人類の可能性は以下略!」
 宇宙空間で相手と話し会うには人型巨大兵器の戦闘中にビームKATANAでつばぜり合いしながらでなくてはならない国際条約が結ばれ既に百年。その作法に従い、頭にV字の角が突き刺さった大体白いメカと通常の三倍赤いメカはビビビとつばぜり合いで相対したのだった。赤いメカに乗る美少女独立国家元首が主張する。
「やはりあなた様とは、道を違える運命だったのですね。寂しいことです。しかし、我らの大願、果たさねば世界が……」
「人類総三食ラーメン化計画で人が幸せになるものかよ!」
「わたくしと共に来なさい……!」
「塩分過多で倒れるのは御免こうむる! あと割とエゴだよそれは!」
 メガ粒子の束たるビームKATANAで交錯すること数度。両者の実力は過去四十話くらいから判断できる通り拮抗しており、その薄氷のバランスを崩すものがあるとしたら、それは全くの第三者……!
「何っ?」
「なんと!」
 急速に迫るプレッシャーを感じ取り、瞬時に距離をとる二体のメカ。果たして、そこに割る勢いで突入してきた影は、いつ発生したかもわからない謎の煙の中からゆっくりと姿を現した。
「こ、これは!」
「巨大な、サイコフレームが、震えて……!」
「いやどう見てもどんぶりだろこれ!」
「そうとも言います」

 めびうーすーのー○からー(オサレなテクノメロディ)

「いかん! T・M○ットワークの名曲が!」
「画面にスタッフロール……まもなくオチの時間ということですね」
「オチ言うな!」
「ああ、どんぶりが、満たされていく……」


                ◆


「これはひどい」
「ちなみ第二次ネオ貴音(キオン)戦争時の記録です」
「これ以上混沌を呼び寄せてどうする!」
「ふむ……では」


                ◆


「センパイ☆ どうしたんですか溜息なんてついちゃって☆」
「誰だお前」

 屋上に荒涼とした風一陣。
 貴音は両こぶしを顎の下につけたぶりっこポーズのまま、顔だけ真顔に戻った。怖い。
「はて……美希によればこのような時には明るく無邪気に接触すべきとのアドバイスだったのですが、あまり効果が見られませんね」
「いいからポーズやめれ」
「はい」
 いつもの隙のない直立体制に戻るこの後輩は、何故ここに現れたのだろうか。一限目はとうに始まっている。サボって屋上でぼんやりしている自分に会いにくるメリットなんて・・・・・・。
「……」
 少し、貴音は目を伏せた。
「この学園を去られると言うのは、ほんとうの事なのですか」
「おう」
 予想通りの問いかけに軽く返す。
「まだ何も始まっていません」
「ん?」
「まだ、何も、先輩殿と成したものがありません」
「そうだな……」
 一度、金網の向こうへ視線を反らす。体育をしているクラスはなかった。学び舎の外は静かで、風は少し冷たい。
「無念だ。とても」
「はい」

 転校生だったのは、彼女の方だ。普通の女子高生のお約束は通用せず、まさに観た目にもふさわしい浮世離れぶりを見せつけた彼女。開いていた席が自分の隣だったこと。夕方の教室で目の当たりにした彼女が学校という世界にやってきた目的。この一カ月あまりの少なくない二人の経験。全ては、これから始まるはずだったのだ。
 物語は幕が開くことなく消えていってしまう。屋上は、まるで自分と貴音の二人だけが取り残されたような錯覚を起こさせるように静けさを保っていた。

「案外、運命なんてそんなものかもな」
「戦わないのですか」
 責めるような口調の反面、見やった貴音の顔はこれまで観たことがないほど紅潮していた。潤む瞳はそれでもまっすぐこちらを突き刺すような力があった。
「大丈夫だ。貴音。俺だけを頼らなくても、成すべき事にきちんと立ち向かえるはずだ。学食のラーメンの食券も一人で買えるようになったし」
「……いけず、です」
泣き笑いのような顔になった貴音に、言葉を重ねて行く。

「運命を、マイナスで考えるな」

「……」
「なるようにしかならない事を『運命』と呼ぶのなら、それに抗うのはナンセンスだ。訪れた事態を拒むな。もとよりお前は、成すべきことがあるんだろう」
「でも、それでは先輩殿が」
「俺はお前の運命じゃなかった。それだけだ」
 突き放した。取り返しのつかない距離をとった。それは貴音も感じるところだったようで、一度驚いたように目を見開いた後。唇を噛んでうつむいた。
「こんな風にお前を泣かせる奴が、運命なわけないだろう」
「……はい」
 その肯定の言葉がやせ我慢だとわかりつつ、最後になるであろう、言葉を紡ぐ。
「一つ頼みたいことがある」
「なんでしょう」
「部室でさ、学食ラーメンこっそり持ちこんで二人で食べたよな」
「はい」
「ゴタゴタしててすっかり忘れてたけど、部室に置きっぱなしだったよな、あれ」
「どんぶり……ですか」
「これから二人で返しにいくか、こっそり学食に」
「……はいっ」
 貴音の手を取る。手を取り合うのも、これが最後だ。


                ◆


「だからと言って意味がありそうでない青春ものっぽくされてもなんと言っていいのやら。あと今の歳のまま学生服着ている自分のビジュアルがすっごい辛い」
「問題ありません。これは『学園』であり『高校』とは一言も言っていませんから」
「何かの逃げ道になるかのような言い訳を……」
「確かにもう少し華はあった方がよろしいですね。えいっ」
「あれ、なんかつまみを回しすぎてバキって音がしたような感覚に」
「問題アリマセン」


                ◆


「こうなったらあの技を使うしかありません!」
「何っ! ついにあのヤーネフェルトの奥義を俺は目の当たりにするというのか! ハァァァァァ! オーラが震えるぜ! コスモが薄っすら見えてくるぜ!」
「えい(かぽ)」
「ラーメンどんぶりを頭にのせたぁ!」
「終わりです」
「それだけかよおおおおおおおお!」
「このヘェルメッツをかむる事により、醤油、味噌、塩、とんこつの4大エナジーがぐるぐると人体に刻まれた戦う遺伝子を刺激した結果、私の体をめぐるヤーネフェルトの血が今まさに呼びさまされるのです……そして!」
「何ぃ、そして吸血鬼げなものに変身して背中から羽を生やし無駄にセクシーなコスチュームに身を包んだ人を簡単に二つ四つにちぎってしまうようなパゥワを手に入れるだと! わっふるわっふる」
「いえ、少々気持ちが安らぎます」
「そんな安らぎ方を一子相伝する血筋の方とはちょっと命のやりとりはノーサンキューだな! 伝奇っぽいの目指そうよもっと!」
「黙りなさい! この痴れ者がっ!」
「ぐうっ、今のは一瞬ドキっとしたがそれは俺がただのドMだからだ」

 ズギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!

「……今のタイミングで効果音は必要があったのでしょうか」
「勢いだね!」
「面妖な……」
「こちらも秘められた紳士の気を解放するしかあるまい……」
「それで秘めていると自覚されていることに驚きを隠せません」
「フ……終わらせよう、前のページから始まった俺たちの運命の戦いを……」
「軽々しく運命などと……しばしお待ちを。どんぶりをしまいますので」
「そこはつけたままで行こうよ!?」
「割ってしまったら大変です」
「うん、まあ、そうだね」
「と隙を見せてどんぶりダイレクトアターック!!!」
「鈍器として有効!?」


                ◆


「ト書きが消滅したんだが」
「わかりやすい読みものは昨今の流行なのです」
「引き換えに失ったものが多すぎると思うな」
「それはこちらにまとめてみました」
「えっ」

                ◆


「お客様は何名様でいらっしゃいますかー? はい、先に食券拝見させていただきまーす。麺の量が普通盛中盛大盛とできますがー? はい、こちらつけめんのお客さまはあつもりで宜しかったですねー? はいありがとうございます。少々お待ち下さい~オーダーお願いします。味噌一丁、塩一丁、つけあつ一丁でーす」
 ぅあーりあとあっす! という店員の威勢のいいオーダーが二十メートル先から聞こえてきた。ポケットにつっこんでいた手を出し、はあっと白い息かける。こうでもしないと気がまぎれない。
 流行のラーメン店の行列。たまの休みに一人でこんなところに行くくらい、当時の自分は暇で他にたいした趣味もない男だった。
「寒いネ!」
「ウン、寒いネ!」
 等といちゃいちゃしている二十台半ばのカップルと、
「先輩がおごりだなんて珍しいー」
「ま、まあな」
 なんて男が明らかになんらかの勝負をかける気まんまん高校生カップル(ラーメンでか?)に挟まれたこの位置は、まるで谷底のような侘しさを押し付けてくる気にさせる。前に後ろにも、うつむくのにも興味を失い、列と並行して走る国道に視線を移した。
 冬の日、繁華街とは少し離れて住宅街といっても差し支えなくなってくる立地。駅からのアクセスは正直悪いのだが、ラーメン業界にはあまり関係がない。発達したネットによるクチコミ評判は近隣から全国まで注目を集めて、繁盛するところには黙ってても客が集まる。つまり、それなりに並んでいるこの店は機械的に繁盛しているということだ。主体性はない。
(あっちはでかい家が目立つな)
 都内でも有数の高級住宅街じゃなかったっけ……国道の向こうに見える街並を何とはなしに眺めていると、
「……子供?」
 国道反対側の歩道で、女の子がふらふらと歩いていた。
 年の頃八歳くらいだろうか。キョロキョロしたかと思えば、しゃがみ、肩を震わせる。
「お次のお客様は2名様ですねー、次が1名様でその次が2名様ですねー」
 やや逡巡した後、足が列から離れた。どうしました、と聞く店員に短くキャンセルで、と告げる。国道を流れる車の切れ目を見計らって向こう側に渡った。
 と、その場には女の子はおらず、慌てて周囲を探し回る。程なく区画の中に入ったところまで進んだところでしゃくり上げているのを見つけた。
「うう、ひっく、ふえぇ」
 改めて、その子の容姿を確認する。道路向こうからでも少し異彩を放っていた。神社も、ましてや祭りもない冬の日に浴衣に草履履き。ヘアバンドをした髪は見事な銀色に輝いており、日本的な服装とアンバランスな印象を受ける。しゃがんで顔を覗き込むようにして声をかける。
「や、どうしたのかな?」
「うっうっ……みちが、わからなくなってしまいました」
 泣きながらも存外にしっかりとした受け答えだった。ジャケットのポケットをさぐり、ハンカチなんて上等なものはなく、ポケットティッシュを手に取り折りたたんで涙を拭いた。ついでにジャケットを羽織らせる。あまりにも寒々しい。
「あ……」
「にしてもこの格好、寒いだろうにどこから来たの?」
「おけいこば、です」
 けいこ、稽古、というと日本舞踊でもやっていたのか。
「わたくし、どうしても、できなくちゃいけないのに、なんどもお(・)な(・)し(・)ところでまちがえてしまって、できなくて……あした、おじさまとおばさまにみてもらおうと……ううえええ」
 またぽろぽろと大粒の涙をこぼし始める。
「あーあー、つまりあれか。それで思わず飛び出してきちゃったのか」
「……うわーん!」
 この年の頃ならではの袋小路にはまった感じだ。どうしていいかわからず、その情動は涙に変えるしかない子供。しかしこの子の風体もあって目立つことこの上ない。その子の手を引き、子供をさらう不審者に疑われる前に、交番に向かうか、と考える。
「くう」
「?」
可愛い音にふいと子供の方を向くと、不思議そうにおなかに手をやっている。
「……腹、減ってるのか?」
「……へっているのですか?」
「いやなぜ疑問系」


 日○屋。日本が世界に誇る安価なラーメンチェーン店である。先ほどの店は行列があるのでアウト。さっと済ませられる場所を見まわして最初に目についた所に入っただけだが。あと口の中がラーメンだったことも未練がましく判断材料になった。
 目の前に子供用ラーメンが出されるやいなや驚愕の声が店内に響いた。
「これはなんというのおしょくじなのですか!」
「え、ああ、ラーメンだけど」
「らあめん……」
 発音のぎこちなさ、マジマジと見つめる様は、本当にラーメンという食べ物の存在を知らなかったかのように見えた。
「おすいものにしてはこのお椀は大きくないでしょうか」
「お椀じゃないどんぶりだ」
「どんぶり……」
「とりあえず食べるか。のびちまうからな」
「のびる!」
 堂々めぐりになってしまいそうだったので、割りばしを手にとりパキッと二つに割る。恐る恐るそれに続く少女。しかし箸の持ち方そのものは自分のそれより整っているように見えた。
「ふー、ふーっ、ずぞずぞずぞ……熱いからよく冷ますんだぞ」
「なるほど……」
 迷子少女ではあるものの随分と聡い。こちらの動きを真似して、麺の束を小さな口ですすった。
「つるつる……もぐもぐ……」
「これが醤油ラーメン、世に言うラーメンという存在の開祖たる歴史ある味付けだ日本人的には。ウンウン」
 調子に乗って講釈じみたことを言っていると、
「つるつるつるつる!」
 さっきより勢いが増している。それを食べる眼差しも妙な輝きを帯びている。
「お……おいしいか」
「もぐもぐもぐもぐもぐもぐ!」
 一気にすすりすぎた為に咀嚼が長い。
「我を忘れるほど旨いか……」
 自分が半分も食べ終わらないうちに、お子様ラーメンを食べ終えてしまった。
「とても……おいしゅうございました!」
 べそをかいていた顔はすっかり引っ込んで、子供らしい笑顔をはっきり見せてくれたことにほっとする。自分もすませてしまおうと麺を手繰ると。
「……」
 こちらのどんぶりを凝視する眼がふたつ。
「……食べるか?」
「わ、わたくしのぶんはたべおわりましたので、どうぞおきになさらず」
「そ、そう?」
 麺を再び口に運ぼうとして目線を向かいに戻すと。
「アー」
 こちらと同期して口を開けるくいしんぼうが。手繰った分をすすりきると、こう持ちかけた。
「どんぶりを貸しなさい。分けるから」
「えっ、でもそのようなことは、おぎょうぎが……」
「いいんだよ。『おかわり』は」
「おか、わり?」
「おいしいものをもっと食べたいと思ったら、おかわりしていいんだよ」
 どんぶりに麺、スープ、半分にしたチャーシューとメンマを乗せて、おかわりの完成だ。目の前にもう一度現れたラーメンを心底不思議そうに見つめている。
「ほら」
「……おじさまやおばさまにも、そのようなおこころづかいをいただいたことがあります。しかし、わたくしはおせわになっているみ。わがままはもうせません」
 なんとまあ……一体どんな生活をしている子なのか気になった。が、ただの迷子とラーメンをおごる男では如何ともしがたい。ただまあ、何となくそんな自分で言えることがあるような気がする。さして考える必要もない。
「それは、わがままじゃない。おかわりはお腹がすいている時の、お作法みたいなものだぞ」
「なんと……!」
 まんまるに見開いた目を見て思わずこちらも口がほころぶ。いただきます、と二杯目に取り掛かる様を、自分のラーメンが伸び続けるのもかまわずに見ていた。


「貴音様を保護。同行者の処遇の指示を」
「いたいいたいやめてとめてやめてとめて」
 すっごい高級車でさっそうと現れて腕をひねられ床に押し付けられたりしたのは、まあ、また別の話。
 なんだか現実離れしたお姫様のような少女との出会いから、なんとなくありそうな話で、徐々に外れる肩関節の痛みもよそに口端は笑いっぱなしだったとさ。


          ◆


「おや、もう朝のようです」
「結局のところさ」
「はい?」
「俺に、何を見せたかったんだ」
「特には……」
「ないのかよ」
「これは、夢です、夢に意味を求めてはなりません」
「そういうものかね……」
「様々な出会いがありました。『わたくし』はこの時、見える世界を魔法のように広くしてみせた心優しい殿方を、決して忘れることはありませんでした」
「『俺』はそんな時間に出会ったことはない。それこそ運命的な過去なんてないよ」
「よいのです。まだ、過去も、今も、未来も定かではないのです。このように心躍る出会いがいくつあっても、よいのです」
「わかったようなわからないような……」
「この夢のように、出会う事もあるでしょう、私にとってそれは」


「それは、運命の出会いに違いありません。」


              ◇


「ごめんな普通の醤油ラーメンで」


 そんなことはない、だってらあめんを頂くときには


「これでようやく仕事も軌道にのってくるな。いや、貴音はよくがんばったよ」


 そんなことはない、いつも自分の為に必死だったのは


「しかし、なんだかんだで俺達のコンビも続いているよな」


 ただ一つの出来事が大きな歓喜を呼んだわけではない


「貴音が超有名になってもプロデュースしたいもんだ。ま、頑張るしかないな!」


 小さなたくさんの出来事、日々の積み重ね


「よし、これからは仕事がうまくいったらラーメンってことにしよう!」



 その先にふたりの『普通』を手に入れられたことが、この上なく嬉しく思うのです







「うし、今日の予定は取材二つと、夕方からボイトレ。変更なしだ」
「了解しました」
「取材はどっちも先方が来てくれるから、のんびり待つとしますか」
「はい」
「最初の所は新創刊のファッション誌だ。先だって創刊号をもらってきてあるから、ほい、読んどいてくれ」
 二人分のコーヒーが香る朝の事務所。他の皆は忙しく出払っていて、いくぶん静かな時間だった。しずしずと雑誌を読み始めた貴音を見やって、コーヒーを手にとって窓の傍に立つ。
「昨日のラーメン屋な」
「……」
 窓から外を見たままで切り出したが、返答はただページをめくる音のみ。
「765プロに来てから、初めて仕事が来た日の夜に食べたとこか」
「……はい」
 自分と貴音の二人はセットで他の大手事務所から移籍してきていた。これまでの貯金をゼロにして一からアイドルとしてのやり直しを余儀なくされていたあの頃、ちょうど一年くらい前の話だ。
「ようやく今の軌道にのせる足がかりがつかめたんだよな。申し訳ないすっかり忘れていた」
「いえ、わたくしもらあめんを前にするまで思い出していませんでした」
「そうか、お互いラーメンを食べるってことももう普通すぎることになってるからな。ははっ」
「ふふっ」
「貴音はよく覚えていたな。何か理由があったのか?」
「……ひみつです」
「?」

 窓に映る貴音の口元が僅かに緩んだように見えたが、それは振り返ると口元に寄せられた雑誌の向こうに隠れてしまっていた。

  



「どんぶりラプソディ」・了


( 2012/01/21 23:59 ) Category SS | TB(0) | CM(1)
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[ 2012/11/03 18:14 ] [ 編集 ]
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