忙中ニコマスあり

アイドルマスター徒然

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コミックマーケット81頒布作品公開 

お久しぶりの更新です。
先日のコミックマーケット81で頒布しましたコピー本のSSを公開します。

ほぼ完売なので今後増刷の見込みがないのと、
アニメ・アイドルマスターの二次創作なので各地で最終回を迎えつつあるご時世ですのでいい時期かと思いました。

アニメにおけるごく初期の貴音と 千早のお話しです。どうぞお楽しみ下さい。





「貴き月の如く」



「千早、あなたなら大丈夫です。思いのままに翼を広げて飛び立って下さい」

 あなたの言葉は、あまりにも自然な、励ましの言葉で、

 だから多分、わたしはあなたの気持ちに半分も答えられていなかった。

 でもきっと、わたしの個人的な思いこみかもしれないけれど、

「それでいいのです」

 と笑ってくれる気がして、まだ少し、あなたに甘えたいと思ってしまっている。

 思い返す様々な場面が、少しづつ、自分にとっての重みを増していく。




…… …… ……

「如月千早です。宜しくお願いします」

 社長に促されて行った彼女の自己紹介はこの上なく簡潔だった。
 少し拍子抜けした同じ事務所のアイドル候補生達が、それでも笑顔で順繰りに名乗り始めた。

 いい人達なんだな。
 長い間、こんなに暖かい笑顔とは無縁だった千早もそれは直ぐに理解した。

 理解はしてもそう思ったことをどう表現すればいいのか、千早にはわからなかった。

 早く、歌いたかった。

 歌さえあればきっと、人と接するのが苦手「になってしまった」自分でも、認めてもらえる場所のはずだから。

…… …… ……

「四条貴音と申します。今後とも何卒、宜しくお願い致します」

 社長に促されて行った彼女の自己紹介は、少し風変わりだった。
 豊かに伸びて揺れる髪は見事な銀、鋭いと思った次には真反対の優しさをも感じる不思議なまなざし。

 結果的に、この四条貴音がこれからの一年以上の時を共に過ごす仲間の最後の一人だったのだが、千早は彼女にだけは段違いの、誇り高さのような空気を感じた。
 ふと周りを見れば他の仲間もぽかんと口をあけ、それこそお話の中に出てくるお姫様のような人物に心奪われていた。

 なんて、綺麗な声。

 そして千早は貴音の口から生まれる美しく包み込むような、さりとて強い意志を感じる声、という彼女の魅力を他の誰よりも先に理解した。
 理解はしても、直情的に胸の奥からこみあげる言葉を言うことはためらわれた。

 あなたの歌を聴いてみたい。

 歌に触れることだけがこの世に生きる支えだと疑わない自分にとって、それは否定できない欲望。

 千早は事務所のプロデューサーである秋月律子に頼み込み、ボーカルレッスン時に仮録音した貴音のCDを借りて何度も聴いた。もちろん、他の仲間の歌も聴き知ってはいたが、少なくとも現段階なら歌で誰にもひけにとることはない、と千早は結論づけていた。
(これならば、歌の仕事に対して自分に優先的に話がくる)
と淡い考えまで抱いていた。
 しかし、貴音の歌声だけはそんな打算とは関係なく何度も聴いた。恐れるとともに、繰り返し聴くのをやめられなかった。
千早は自分の歌声は自分の努力が作り上げてきたと信じて疑わない。それに対して、貴音の声はまさに天が与えたとしか思えない煌めき。ただ「在る」だけであらゆるものを退けてしまえるような威光に、自分の得意分野を脅かすライバルというより、千早の中で憧れとうれしさの感情の方が勝った。

…… ……

 慌てて廊下の先に小走りに消えていく天海春香を見て、千早は少しほっとした。
 
 ともすればささくれだってしまう心が少しほっとすることは、千早は嫌いではなかった。何度目かのテレビ番組への出演オーディションにて、芸能界というのは嫌なことも多いのでは、とこぼした千早をいつも事務所でもひときわ明るく笑う春香は元気に励ましてくれた。 
 
「如月千早」
「え?」
 控え室に戻った千早は思わずその声に妙な反応をしてしまった。いや、名前を呼ばれたのは初めてではない。今日のオーディションに765プロから参加しているもう一人、四条貴音がこちらに呼びかけただけだ。
 でも今日は目の前の、このさして綺麗とも言えない控え室に座して尚目立つ容姿の彼女のまなこが、急に自分の奥底を見定めてきているような気がした。
「なにかしら」
 席に戻りながら千早はなんでもない体を装った。そのまま立っていたらどこまでも見通されそうな視線をそらす為に。
「天海春香の様子はどうでしたか」
「え……ええ、大丈夫よ、勢い余って通りかかった人とぶつかってしまったけど」
「そうですか、ふふ……実に彼女らしい、と言えましょう」
「そうね、さっきまで緊張していたのが嘘みたい」
 
 この時千早はもう一つのことに思い当たった。『嘘みたいに』落ち着き払っている貴音の物腰そのものに。

「本日のおーでぃしょん、うまく行くとよいですね」
 そう言って貴音は笑った。

 オーディションを前に緊張しすぎた春香が、「心臓飛び出しそう」とつぶやいたところ、貴音は「それは一大事っ」と突然を救急車を呼ぼうと席を立ったのだ。泡を食った春香が貴音をいさめ、お手洗いにいくねと本来取るべき行動をとって部屋を出たのがつい先ほどの出来事。
しかし今貴音は、春香の心臓が飛び出したかではなく、春香の様子が落ち着いたのかを案じていた。自身は落ち着き、静かに座ったままで。今日挑むオーディションに自分が、事務所の仲間がよい状態で望めるか、ただそれだけを気にし、わざと春香の気をほぐそうと道化をやってのけた……少なくとも千早にはそのように見てとれた。

「……」
「どうしました?」
 小首を傾げて訪ねる貴音の微笑にはそれこそ、完璧だと思えるような優しい空気をたえている。

 自分が歌う為にこういった歌と関係ない番組(歌を歌わせてくれるような仕事はまだまだ少ない)を、芸能界の嫌なところも経験しながら耐えなければいけない、と凝り固まった自分の心さえ和らいでしまうような暖かさ。でも、その暖かさが……、

「いえ……」

 辛い、と言えず千早はそのまま黙る。

 貴音となら、「歌」だけで通じあうものができる、だなんて思い描いていた自分が、急に恥ずかしくなったから。
「四条さんは、すごいわね」
 そして千早の煩悶はそのまま声になっていた。
「しっかりと周りを見ることが出来るのね」
 それだけの才能があるのに、という言葉は呑み込んで。
「すごい、などとは……でも、ふふっ」
「?」
 それなのに貴音は微笑んで、疑問符を浮かべた千早にこう告げたのだ。
「如月千早。周りを知り、自らを評するということは、あなたもまた良きまなこを携えている証拠。いくさ場においてこれほど頼もしいことは……ありませんよ」
 古風で、もってまわった、いかにも彼女らしい言葉。
 そして、誉められてる?
「共に目指しましょう、アイドルの高みへと」

 ……自分はこの人にふさわしいのだろうか。

「えっ、あっ、その……はい……」
 全幅の信頼とも言える彼女の言葉に、千早の返事はもごもごとか細いものになってしまった。
「四条貴音さん、審査会場へお願いします」
 入り口からスタッフの声がかかる。貴音はかしこまりました、と応え静かに席を立った。
「あ……」
 何か言葉をかけるべきだ、千早はそう思うものの貴音の足取りは存外に早く自分の脇を通り過ぎてしまう、ただその刹那、

(わたくしも、緊張しているのですよ?)
 くすぐったいような甘い響きの囁きが千早の耳に届くとともに、するりと千早の手の甲を貴音の手のひらが触れた。

「あっ貴音さん、がんばって下さいね!」
「はい、春香達にも武運を」
 入れ替わりに戻ってきた春香にも微笑みを差し向け、貴音は控え室から出ていった。
「さすが貴音さんだねー。こんな時でも落ち着いてて。私も見習らわなくっちゃ」
「そうね……」
 千早は言葉では同意したが、貴音に触れられた手の感触とほんの少し開いて見せられた彼女の気持ちを胸にしまうことに精一杯だった。

 それは多分、彼女なりの、自分を信頼することへの証。
 そしてそれを受け止めきれないと感じる、千早の自分の未熟さへの自覚。
 
「ほんとうに、そうね……」

 だからせめて、言葉だけでも口にしておかないと、千早はそんなことを思った。





 ほら、たった一つ思い返すだけでも、こんなにも言葉があふれてくる。

 だからこれからもゆっくり、あなたへ気持ちを返していけるかな?

 まるであなたが見上げる月のように、静かに、光を……。

                          


 「貴き月の如く」 了

( 2012/01/08 00:57 ) Category SS | TB(0) | CM(0)
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