忙中ニコマスあり

アイドルマスター徒然

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第八回一枚絵で書いてみm@ster・参加作品 

・たかねねー

かきますた08

「あ、たかねねーおはよう」

 それが自分に対しての挨拶であることに、四条貴音はしばし気がつけなかった。
 彼女は背を向けたまま、自分がダイニングに姿を現した気配だけで声を上げていたからだ。

「……おは、よう……ございます?」

「まったく、のんきでいいなあたかねねーは」

「響、ですか?」

「?」

 誰何の声を上げる貴音に驚き振り向いたその人物は、確かに貴音の知っている我那覇響だ。



「響、その、たかねねー、と言うのは私の事ですか?」

「……なんで? ははーん、まだ寝ぼけてるんだな」

「いえ、そういう訳では」

「あっ! もうこんな時間!」

 そういうや否や響(確かにその顔かたちは貴音の知る我那覇響であった)は、台所でてきぱきと家事を働いている。

「はい、紅茶っ。昨日の残りのスープをあっためておいたから! そいじゃ、いってきまーす」

 貴音が声をかけようとしている間に響は出ていってしまった。


 頭がぼんやりする。寝起きだからだろうか。

 
 目の前に取り残されたのは、ことことと弱い火にかけられた鍋と、湯気を上げて琥珀色の紅茶をたたえるティーカップ。

 紅茶からは何やら爽やかな香りがしている。柑橘系だろうか、あまり馴染みのある香りでもない。しかしてその香りが鼻から頭に染みわたり目がさめていくような感覚がとても好ましく思える。

 貴音はティーカップを手に取り、紅茶を口にした。

「……おいしい」

 甘く、それでいて爽やかな香りが口一杯に広がるフレーバー・ティーに、貴音は顔をほころばせた。





「貴音様、朝にございます」

「はい」

 ぱちり、と貴音は目を開けた。
 お越しに来たじいやにおはようございます、と言うのが彼女の一日の始まりだ。

 洗顔その他身づくろいをじっくりと済ませ洗面所からもどってくれば、大きな一人がけのソファの手前のサイドボードに紅茶が用意されていた。

 東京に出てきてからこっち、何一つかわらぬ朝の時間。

「今日はお休みにございます」

 じいやから告げられることで、今日は休日であることを認識する。
 休日の場合は、こうして朝の紅茶の時間を気持ち長く作ることで、やや緊張感を解いたリラックスした精神状態を作るのが好ましい。

 いつもどおり、厳選された葉を用いた紅茶は朝の時間に相応しい。じいやが出すお茶はいつも最適だ。
 日本茶の時も、中国茶の時でも。貴音がその日送るべき一日の始まりに相応しい茶葉を選び、淹れる。その後に用意する朝食も抜け目はない。

 四条貴音は一日を過ごすべく、芳醇な香りを放つ紅茶を口にして表情を引きしめた。






「そうです。今日はお休みでした」

 カレンダー見て貴音は納得がいった。でなかったらこんなにゆっくりと朝の時間をすごしていないからだ。

 そう、いつもの自分は……。  自分は……?

「はて?」

 何故だろう、『いつもの朝』に自分が何をしていたのかが思いだせない。

「ぬあー!」

 唐突に玄関が開いて、出かけたはずの(そういば彼女はどこに行く用だったのだろう?)響が息せき切って入ってきた。

「ま」

「ま?」

 響は実に悔しそうな顔で、地団太を踏んで叫んだ。

「まちがえたー! 今日は部活も休みだったんだー!」

 部活、というものがよくわからなかったが、悔しがる響が不思議と面白く感じてしまい、貴音は口に手を当てて笑った。

「た、たかねねーに笑われたっ! ぬあーっ」






 じいやに世話を焼かれながら貴音が朝食を進めていると、電話が鳴った。

「よしなに」

 取るかどうかは貴音の気分次第だ。
 そして、今日は朝食を中断してもよい心地だった。

 部屋を出たじいやがそれに応答もそこそこに、子機を持って戻ってきた。

「我那覇様です」

「こちらに」






「ふんふんふーん」

「響、うれしそうですね」

「あれっ、そう見える?」

「はい。とても」

 さっきまでの癇癪はどこへやら。
 朝食をいっしょに食べると、響は帰って来た恰好の上にエプロンを付けて台所に立っている。

 貴音はリビングのソファにさっきの紅茶と共に場所を落ち着け、その様子を眺めていた。
 

 紅茶から香る爽やかな香りが頭に浸透する。
 すこし、思い出した。

 響は学校で「卓球部」に所属している。
 立派なもので、副部長を任されているらしい。
 一度その様子を見に行ったこともあった。
 とても小さい球を器用に跳ねながらこれまた小さいラケットで打ち返す様に関心した。

「家でゆっくりたかねねーといられるからかなー」

 焼いたトーストとゆで卵をテーブルに置いた響はエプロンをはずし、貴音の隣にすとんと座る。

「んふふー」

 甘えた声で響は貴音の肩に頭を預けてきた。この距離も・・・・・普段通りだ。

「響、これでは朝食が食べづらいですよ」

「たかねねー、あーん」

「いけませんよ」

 これは度をすぎた甘えんぼだ。たしなめると、響は、尚貴音にこすりつけてきた。

「響」

「えへへー」

 貴音は何かふわふわした心地を感じていた。部屋の輪郭がぼやけ、壁やテーブル、目の前の朝食から色合いが抜けていく。






『はいさい!』

「おはようございます。響」

『貴音ー、今日暇か?』

「いいえ」

『ぐはっ、即答された!』

「本日はオフなので」

『いや、オフなら暇だろ!』

「オフなので自主レッスンを行います」

『うー、かたっくるしいなあ。961にいた頃とぜんぜん変わらないじゃんかー」

「鍛錬を怠っていいわけではありません」

『ちょっと会って話がしたかったんだけど・・・・・・しょうがないか』

「響」

『なに?』

「会いましょう」

『えええっ!? なんで貴音暇じゃないんだろ? 無理しなくても』

「勘違いしていますよ。私は、私がするべきことを考え、今日のオフにレッスンをすることをきめたのです」

『だから、邪魔しちゃ・・・・・・』

「響の話を聞きたいという心持ちがそれより勝れば、何も隔てるものはありません」

『うーん、つまり~、会えるってことか?』

「勿論です」






 ここは、ゆめまぼろし。




「響」

「なあにーたかねねー」

「もしや、そろそろではないですか」

 そう切り出した貴音の言葉に、彼女の肩に顔をうずめていた響の動きが止まった。

「・・・・・・たかねねー」

 寂しそうな声を出す響。貴音はその頭をすい、と撫でた。

「怖くはありませんよ」                     

「うん」

 そうは言ったもの、貴音自身も恐れを抱いていないわけではなかった。
 二人が寄り添い座るソファ以外、実体を感じられるものは見あたらなかったからだ。
 
 ただ、白い空間に二人。次に見えなくなるのは自分の手か、足か。
 響の髪を梳く手の先も、ぼやけて。



 ぽつんと残る響は、にっこりと笑って、手を振っていた。







 貴音と響はスケジュールが重なった時などによくお茶をするカフェで待ち合わせた。
 
「……恥ずかしい話なんだけどさー」

 響は手元のシークァーサーのジュースのコップを手で包みながら、そんな風に切り出した。

「昨日、なんというか、へんてこな夢をみちゃって」

 歯切れ悪く話し始める響はストローに口をつける。
 
 同じ飲み物を頼んでいた貴音も一口飲んだ後しばし考えて、試しに一言つぶやいていみることにした。

「たかかねー」
「ブホー」

 吹き出された新鮮なシークァーサーの果汁はするりと貴音が掲げたトレイに阻まれた。

「はしたないですよ」

「なっ、なっ」

 響は顔は紅潮させ、信じられないものを見る目で貴音をまじまじと見つめた。
 そのが鼻がくっつくほどに顔を寄せ、絶対に盗み聞きされまいという密やかさで問いかける。

「な、なんで自分が見てる夢を知っているんだ!?」

「よくあることです」

「ないさー!!」

「そこまで悩ましいものですか? 夢のあなたは、とても心地よさそうでしたよ?」

「うっ、うっ~、それは、その、確かに、いい夢かも知れないけど、でもでも、いつも顔付き合わせる相手が夢に出てきて、そのいろいろしたり・・・・・・されたりするのって、なんか変じゃないか? 自分、変になっちゃったのかな・・・・・・」

 恥ずかしさと、自分でもわからない感情にさいなまれてか、響はみるみる小さくなって、椅子にへたりこんだ。うっすら涙すら浮かべている。

「響、なんら気に病むところはありません」

「貴音~」

「むしろ」

 貴音はするりと、テーブルの響の手上に自分の手を重ねた。そして、そのまま指先でつつ、と甲ををなぜる。

「ふえぇっ?」

「『ほんとうに』、そのようにすごして見ますか?」

 貴音はにこりと、それでいて絡みつくような笑顔で、響を見やる。

「うっ、あ、わわ」

「さあ、呼んでごらんなさい。たかかねー、と」

「う、わわわわ」

 響の目は焦点を失い、顔に油汗をびっしりと浮かべ、顔の紅潮は限界に近い。

「うわーーーん!」

 たまらず、響はカフェを飛び出していってしまった。
 手をとった恰好のまま貴音は彼女が全力で逃げていく様を見送った。

「・・・・・・おいたがすぎましたでしょうか」

 貴音は手元のジュースを手に取り、店員を呼んだ。

「連れの者が帰ってしまったので、こちらは」

 先ほどの騒がしく退場した響を認めていた店員はややぎこちない笑顔で、そのコップを下げる。


 残ったコップを手に取り、貴音はストローに口を付けた。
 爽やかな香りが鼻腔を満たし、唇に残る感触を、彼女は愉しんだ。






 これは、ゆめまぼろし。


「たかねねー、今日の朝ご飯は、クラムチャウダーだぞ!」

「まあ、とてもいい匂いですね」

「えへへー、あ、それとそれと、今度のインターハイ、見に来てくれる?」

「ええ、楽しみですね」

「うわーい!やったー!」


 ふたりがもとめるから、おなじゆめまぼろし。




・たかねねー     了






謝辞:提出期限を大幅に過ぎた投稿、申し訳ありませんでした。

イラスト提供:ごまうP http://hetaneko2.blog81.fc2.com/
企画元サイト→http://triskelion.sakura.ne.jp/ichimai-8.htm
( 2010/10/22 23:44 ) Category SS | TB(0) | CM(0)
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